『50歳を超えてもガンにならない生き方』刊行記念! 著者・土橋重隆先生、ロングインタビュー

 

 

 「病気も自分自身、過去からの結果ととらえられれば、医療との関わり方も大きく変わってきます」

 

 

 

 

 

2012年11月21日、医師・土橋重隆先生の著書、『50歳を超えてもガンにならない生き方』(講談社+α新書)が刊行されました。帯に「ガンは心で治す!」とあるように、ガン(病気)と思い(心)の深いつながりにスポットを当てた、これまであるようでなかった、従来の「ガンの本」とは一線を画す注目作です。「病気は決して悪いものではない、そこにも意味と価値は必ずある」「病気に対する向き合い方を変えることが、ガンを治癒させる第一歩」……こう語る土橋先生に、長年にわたってガン医療に携わってきた豊富な経験をふまえつつ、同書につづられた生き方、考え方のエッセンスをたっぷりと語っていただきました。

 

 

★大事なのは病気を治す方法論ではなく、“患者自身が病気をどう捉えるか”
 

――この数カ月準備してきた『50歳を超えてもガンにならない生き方』(講談社+α新書)が、ついに刊行されましたね。今回の出版にあたって読者の皆さんに何を一番伝えたかったのか? 今日はいろいろとお話を伺っていきたいと思います。

 

土橋:よろしくお願いします。

 

――まず、お読みになっていただくとわかると思うのですが……。これまで刊行されてきた「ガンの本」とはちょっと違う印象がありますよね(笑)。

 

土橋:ええ(笑)。医者の書いた本には、いまの医療のしくみ、体制に対して批判的な側面というのが少なからずあるでしょう? たとえば、西洋医療のあり方を否定的にとらえ、代替療法の有効性を論じるといったような。ガンについてもそうした文脈で語られることが多いですよね。

 

――そうした対立軸は確かにありますよね。

 

土橋:私の場合、そこにはあまり興味がないというか、西洋医療、代替療法含め、病気治しの方法論が問題だとはそもそも思っていないんです。

 

――ああ。その点にまずビックリする人も多いと思うんですよね。

 

土橋:心情的にはよくわかることなんですが、こうした方法論よりも「患者さん自身が病気をどうとらえるのか」ということが大事なんです。病気になった自分自身に目を向けて、これまでの生き方のどこに原因があったのか、これからどうなりたいのか、そうしたアプローチがまずは必要になってきます。

 

――どんな治療を受けるか、どんな医者に診てもらうかはその後だということですね。

 

土橋:そう。いままでの自分の生き方、考え方を見直すという段階をしっかりと踏んだうえで、次にいまあるいろんな治療法のどれを選べばいいかを検討していく。その意味では順序が逆なんです。生き方の見直しができるかどうかが、じつは治療の結果を大きく左右するわけですから……。

 

――実際の治療の結果を左右する? ガンの場合でも?

 

土橋:ええ。じつはガンが治癒するかどうかのカギは、治療法の良し悪し、医者の技量よりも、患者さんの思いによるところが大きいんです。

 

――ああ、本の帯にも「ガンは心で治す!」とありますもんね。

 

土橋:ありますね(笑)。従来のガン医療では、残念ながらこの心(思い)の部分が切り捨てられてしまっているんですね。ですから、名医に診てもらおうとか、自分に合う治療法を探そうとか、まずそういう発想になってしまう。

 

――西洋医療が正しいのか、代替療法が正しいのか、そういう二元論になる。

 

土橋:でも、どちらが正しいとは一概に言えません。どちらにも、いいところと悪いところがある。

 

――先生が常々おっしゃる、「何事も長所半分、短所半分」ということですね。

 

土橋:抗ガン剤が悪い、放射線治療が悪いと短所ばかり見るのではなく、私は「まずは全部を受け入れてしまおう」とお話しています。そのうえで、何を選ぶか、選ばないかを考える。そういうプロセスを経ることで、患者さん自身に主体性が生まれます。受け身ではなくなるんですよ。そこが大事なんです。
 

 

 

★治療法に関係なく、治る人、治らない人がいるのが現実。その違いは“主体性”の有無

 

――逆に言えば、受け身でいつづけるかぎり、思うような治癒に結びつかないということですね。たとえ名医に診てもらっていたとしても……。

 

土橋:現代医療は「診断8割、治療2割」というのが普通ですから、名医といってもそれは診断学のプロであることが多いんです。いかに正しい診断をするかが重要であって、治療についてはあまり変わったことはやれないんです。

 

――現行の保険医療のなかにいるかぎり、治療法はある程度決まってくるということですね。

 

土橋:そうです。自由診療でなければ、変わったことはできません。

 

――といって、自由診療を選べば治癒率がアップするというわけでもない?

 

土橋:治療法と関わりなく、治る人と治らない人がいるというのが現実です。その違いは、先ほどお話した主体性を患者さんが持っているかどうか、もっと言えば、自分の頭でしっかり考えようとしているか、ここにかかってくる。

 

――自分の頭で考えるなんていっても、なかなか難しいと感じる人もいるかもしれません。ましてガンの告知をされたら……。

 

土橋:詳しくは本のなかで紹介していますが、余命数ヶ月と言われた末期ガンがなぜか治癒したという人であっても、特別なことをされたわけじゃないんです。皆さん、市井で生きるごくごく普通の人たちです。精神力がすごく強いというわけでも、何か高尚な考え方を身につけていたということでもない。

 

――でも、何かの拍子にガンが治る方向にシフトできたということですね。本人も気づかないようなところで……。

 

土橋:そこが面白いところです。患者さん一人ひとりに、そういうすばらしい可能性があるんです。ただ、その可能性を使い切っていない。そこに気づかないまま、治った・治らなかったと判断をするのは非常にもったいないことですよね。

 

――先生は、「どんな病気にも意味と価値がある」とおっしゃっていますよね。

 

土橋:日々たくさんの患者さんに接していると、「この方は病気になることでいろんなことに気づかれたんだな」とか、「人生を豊かなものに変えていったんだな」と思えるケースが少なからずあるんです。ガンになっても、悪いことばかりではなく、いいことが一つや二つ必ずあります。

 

――なるほど。要は、そこに気づけるかどうか……。

 

土橋:そうです。実際に治った人を見ていると、どの方も医者に言われるがままではなく、独自性をちゃんと持っていて、自分の意思で行動されています。それが、治癒に関係している一番大切な要素じゃないかなと思いますね。
 

 

★病気を自分自身から切り離そうとするだけでは、治癒につながりにくい

 

――お話を伺っていてつくづく思うんですが、先生って「病気を悪いものだ」とまったくとらえていないんですよね。無理に排除しようと思っていない。お医者さんなのに……(笑)。

 

土橋:そうですね(笑)。一般的には「病気は悪いものだから排除する」というふうに発想していますよね。それが代替療法であっても、西洋医療であっても……。何か悪い症状を見つけると、それは患者さんにとって都合が悪いものだから早く取り除こう、無くそうと思う。そこから治療がスタートするのが普通でしょう。

 

――悪いところを排除して何が悪いんだ、当たり前のことじゃないか。そう感じる人も多いかもしれませんが……。

 

土橋:気持ちはわかります(笑)。でも、そうやって排除するということは、病気を自分自身から切り離そうとすることになりますよね? それでは病気になった原因には目が向けられませんから、病気の治癒につながりにくいんです。

 

――「悪いものを排除すれば治る」と思っている人が多いでしょうから、ここが一番のポイントと言えるのかもしれませんね。

 

土橋:皆さん、病気を自分から切り離して考えるという癖がついてしまっているんです。でも、その病気として現れているものも自分自身であると、自分自身の過去からの結果であるととらえられるようになると、医療との関わり方も大きく変わってきます。

 

――べつに現行の医療を否定しているわけではないんですね。

 

土橋:もちろん。私自身、治療は行っていますしね(笑)。

 

――決して特別ではない、ごくごく普通の治療なんですよね。

 

土橋:どの治療法であっても、いま必要とする人がいて成り立っているわけですから、頭から否定できるものではありません。そうではなく、まずは病気を切り離さない。病気も自分自身だというふうに考える。そうすると「過去の時間」に目が向くようになる。自分の生き方に何らかの問題があったということに気づけるようになる。

 

――なるほど。悪いところが無くなれば治るというわけではないということです。これって、ガンのような大病にかかっていない、いわゆる健康な人にとっても生き方のヒントになるような話だと思うんですが……。

 

土橋:そうですね。自分の周りで起きる出来事についても、誰かのせいにするのではなく、自分自身と関係している要素があるのではないかと考えてみる。まず自分に引き寄せてみる。それができるかどうかで、物の見方が変わってきます。

 

――病気になって慌ててそういうとらえ方をするのは難しいでしょうから、普段からそういう発想ができたほうがいいということですね。

 

土橋:私たちはいまこの空間に存在しているわけですから、病気だけが特別なわけではありません。この空間で起きてくることは、どんなことであっても自分に対するメッセージというふうに考えればいいんじゃないでしょうか。それに対して自分がどう対応すればいいか、そこに独自性が求められるということですね。

 

――独自性……。つまり、「自分の頭で考える」ということ?

 

土橋:そうです。病気になるということは、そうした独自性のある、自分らしい生き方に変化するきっかけにもなりえます。繰り返しますが、病気になるということは悪いことばかりではない。つらいことであっても、意味と価値は必ずあるものなんです。
 

 

★システムにただ寄りかかっているだけではなく、まずは自分の考えを持つ、自分の意思で動く

 

――医療現場で起きていることが一つの象徴だと思うんですが、いま、これまで続いてきた社会システムや考え方が行き詰まっているというか、時代の大きな節目を迎えているところがありますよね。こうした時代の節目をどう生きればいいのか? 先生の本にはそうしたヒントも詰まっているように思えます。

 

土橋:いままでの社会というのは、既存のシステムに自分を合わせることのほうが常識だったと思うんですね。ずっとそういう歴史が続いてきたわけですが、それではどうにもならなくなってきた。いままでのやり方では問題が解決しないということに、皆さん、だんだん気づくようになってきた。

 

――そうですね。きっと、それは多くの人が感じていることだと思います。

 

土橋:医療についても言えることですが、いまのシステムにただ寄りかかっているだけではなく、まずは自分の考えを持つ、自分の意思で動く……そうすることによって未来が見えてくる、そういう時代になったんだと思いますね。

 

――これまでは、それができない人が多かったわけですね。

 

土橋:いままでは自分を殺して、「常識」や「定説」のなかで生きることが良しとされてきたのだと思いますが、それがもう終わりを迎えようとしているのかもしれません。これは過去の時代になかったような、とんでもない変化だと思います。

 

――ただ、「自分の考えを持つ」というと、何かの主義・主張を持つことだとイメージする人も多いと思うんですね。一昔前に、右か左かみたいな時代もありましたが、それとはまた違うんでしょうか?

 

土橋:自分の考え方をことさら主張するのではなく、まず自分の生き方を変化させていくという、そういう方向で考えていけばいいんじゃないでしょうか。

 

――相手を論破するんじゃなく、自分自身が内面から変わっていくという、そういう意味での自主性なんですね。

 

土橋:ええ。生きているのは他ならぬ自分自身ですから、まず自分の中で解決できるような変化が必要ですよね。イデオロギーの問題になってくると、そのへんが抜け落ちてしまいますから……。社会の体制に影響を与えるような意見とかじゃなく、もっと個人的な、自分の生き方を満足させ、自由な人生に変えていくような……。

 

――そうした生き方の核みたいなものが必要ということでしょうか。

 

土橋:そうですね。一人ひとりの中に自己の中心が、軸ができる、そこが重要なのだと思いますね。いままでの歴史では、社会だけが変化して、個人が変化せずにずっときたわけですが、今回の変化というのは、社会も変化するし、個人も変化する。そこが大きく違うように思います。

 

――非常にワクワクするような一面もありますね。世相的にはネガティブに言われることが多いですが、そればかりではないというか……。

 

土橋:こと医療に関して言えば、皆さん一人ひとりに関係していることですよね? どんな肩書き、どんな立場の人であっても、病気はつきまとうわけですから……。現行の医療システムに問題があることは確かですが、そこに変化を求めるのではなく、まず病気に対する自分自身の理解の仕方を変えていく。まずは自分が変わる。すると、自分の生き方や感じ方が変わる。これが社会の変化にもつながっていくはずです。

 

――これまで忌み嫌われてきた病気が、変化の一番の媒介になりうるわけですね。

 

土橋:そうです。病気は治すものだというのが常識ですが、実際には、そうした常識では収まりきらないものがあるわけです。切り離すのをやめ、自分なりに受け止められるようになると、その意味がだんだんわかってきます。問題は自分自身にあるんだとわかることで、軸ができるんですね。

 

――こういう患者さんが増えてくれば、お医者さんの立場も変わっていく?

 

土橋:もちろん、医者も変わっていくでしょう。病気直しが無くなるわけではありませんが、そういう考えになった患者さんのサポートがいかにできるか? それがこれからの医者の仕事になってくると思いますね。

 

――そのためにもまず、僕たち一人ひとりが目覚めるという……。

 

土橋:すぐには難しいかもしれませんが、皆さんが主体性を獲得していけば医療制度も変わっていかざるを得ないでしょう。

 

――「保険制度はよくない」とか、「薬漬けの医療はやめるべきだ」とか、現代医療に反対したり、変えようとしたりしなくても、自然に変わっていくわけですね。

 

土橋:そうした医療制度の問題点を理解することも必要ですよ。自分なりにしっかり理解したうえで、これを自分で変えるのではなく、この制度をどううまく利用していくかをまず考える。制度に利用されるのではなく利用する。医者とも賢くつきあう。……こうした段階を経て、制度も変っていくんだと思います。

 

――わかりました。最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。

 

土橋:いままでお話してきたように、大事なのは病気に対する視点を変えることです。それがわかれば、ガンであっても決して怖い病気ではなくなります。病気が治癒するメカニズムも、もっと明確に捉えられるようになるでしょう。いまはこうした考え方をより多くの人と共有できる、とても面白い時代になってきたのだと思っています。

 

――今回の本が、新しい生き方・考え方を身につけるきっかけになれたらいいですね。今日はどうもありがとうございました。

 

「生命科学情報室」ホームページより転載)